当社グループでは、「リスクマネジメント基本方針」に基づきリスクマネジメント委員会を設置し、企業経営に対する重大なリスクへの適切かつ迅速な対応の強化に取り組んでおります。年1回、経営目標の達成を阻害する可能性のあるリスクを洗い出し、「経営への影響度」と「発生可能性」の両面で評価を行いリスクの重要度を決定します。重要度の高いリスクについては、部門統轄の管理の下で主管部署が対策を講じることによりリスクの最小化に取り組んでおります。こうした取り組みは、リスクマネジメント委員会での審議を経て、取締役会に報告され、経営層からの継続的な監督を受けております。また万が一、危機が発生した場合は、対策本部を設置し、迅速かつ的確に対応することで、影響の極小化に努めてまいります。
認識しているリスクのうち、当社グループの経営成績、株価及び財政状態等に影響を及ぼす可能性が特に高いと判断しているリスクには以下のようなものがあります。
また、各リスク項目の文末における[ ]については、リスクが顕在化した際、当社グループが掲げております、長期ビジョンの3rd Stageである※中期経営計画23-25の基本戦略のうち、主に影響を受ける戦略を示しております。(※基本戦略については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 「中期経営計画23-25」の5つの基本戦略」をご参照下さい。)
なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
1. 原料穀物調達(穀物相場・為替の変動等)
当社グループにおける主要製品の原料となる小麦、大豆、菜種、トウモロコシ等の穀物は、主に海外から調達しております。そのため、原料コストは、穀物相場、為替相場及び海上輸送運賃の変動による影響を受けます。また、小麦については主に国の政策に基づく売渡制度により調達していることから、国際貿易交渉の進展等により、その管理手法に大幅な変更があった場合には影響を受ける可能性があります。
穀物相場や為替相場、エネルギーコストの急激な高騰は、製品原価を押し上げ、当社グループの経営成績を大きく左右する可能性があります。影響を最小限に抑えるべく原料価格に見合った適正な製品価格への転嫁、コスト削減施策の実施等に努めております。加えて、為替相場の変動リスクを軽減するために、予め決められたルールに基づき先物為替予約取引を含むデリバティブ取引を一部利用しております。
原料穀物を継続的に確保するために、生産地での異常気象や輸出国の物流障害等に備えて調達地域の分散を図っております。また、小麦については我が国の主要食糧の安定供給を図る観点から国が一元的に輸入しておりますが、不測の事態に備えて2.3ヶ月分の備蓄在庫を保有しております。飼料用穀物は、災害発生等の緊急時の復旧期間を3週間と想定して当社関連会社の穀物サイロ会社において備蓄在庫を保有しております。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①]
2. 製品安全
食品の安全性に対する消費者の意識は年々高まっており、法律や国からの指導、安全基準は一段と厳しくなっております。
当社グループでは、食品の安全・安心を確実に実行していくためのシステムとして、当社独自の「食品安全・品質マネジメントシステム(FSQMS)」を運用し、予防的な対策と継続的な改善を行っております。FSQMSは、HACCPを柱としてISO22000、GFSI認証スキームであるFSSC22000、ISO9001、AIBフードセーフティシステムの仕組みを取入れ、効率的な運用ができるように再構築したものであります。また、万が一、製品の安全・安心に懸念が生じた場合に備えて、製品回収の仕組み・手順を構築しております。
健康被害や法令違反が疑われる場合は、緊急製品安全委員会で対応を検討の上で製品の回収を決定し、社告やホームページ等で開示する体制をとっております。ただし、これらの想定範囲を超えた事象が発生した場合、例えば、食品安全上の不具合により原材料が調達不能となったことによる操業停止、製品回収によるコストアップ、一時的な出荷不能に伴う売上高の減少、信用低下に伴う顧客離れによる中長期的な売上高の減少等が発生した場合には、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
また、配合飼料についても安全・安心を確実にしていくためにISO22000の仕組みを構築しており、不具合が発生した場合は、食品と同等の体制で対応いたします。
ただし、想定を超える規模の家畜伝染病(BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザ、豚熱等)が発生した場合、配合飼料販売への影響及び当社グループを含む飼料畜産業界全体に影響を与える可能性があります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/⑤]
3. 災害・事故・感染症
将来発生が想定される大型地震(南海トラフ巨大地震、首都直下地震等)や近年多発している風水害(台風・大雨等)等の自然災害、火災・爆発等の事故や国家的警戒レベルの感染症の流行は、当社グループとしても重大なリスクと認識しております。
当社グループは、生産拠点として全国各地に工場を有しております。これら工場設置地域においては、安全管理体制の確立や設備補強等の対策を講じておりますが、想定以上の大規模災害、事故、感染症が発生した場合は従業員の出勤不能、サプライチェーンの断絶、工場の操業停止による製品供給体制の停滞等を招き、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
災害対策として、各拠点では定期的な災害訓練の実施により有事対応力を強化すると共に、災害対策委員会を定期的に開催し、災害発生時の情報ルートや連絡手段等の見直し、災害備蓄物資等の整備を行っております。万が一、災害が発生した場合、先ず従業員とその家族の安否を確認の上、災害対策規程に基づき、災害にかかる応急措置を迅速・的確に実施し、被害の軽減を図ってまいります。また、事業継続の観点から各工場のBCPを整備し、訓練等を通じて検証と改善を実施し、BCPの実効性を高めております。さらに、必要となる業務システムについては、データセンターの複数拠点化やシステムダウン時に直ちに予備機に切り替えるなど業務を継続できる体制を整えております。
火災・爆発等の事故対策として、管理体制の強化や事故発生を防止する設備の充実、定期的な訓練や安全巡視の実施、教育・啓蒙活動を行うとともに緊急事態発生時に対応するためのマニュアルの整備等を行っております。
感染症対策として、感染者が出た場合あるいはその蓋然性が高まった場合には、感染症対策本部を設置し、感染症のまん延防止及び事業継続に向けて、国・自治体等の指針に沿って適宜適切に対応する体制を整えております。
当社グループとしましては、今後も引き続き、お取引先様、お客様及び当社グループ従業員・家族の安全と健康を最優先に、食品メーカーとして安全・安心・安定供給の責任を果たすべく、事業の継続に努めてまいります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/④/⑤]
4. 情報セキュリティ
ICTの発展に伴いサイバー攻撃の手口も年々高度化・巧妙化するなど、当社グループを取り巻く経営環境において、サイバーリスクは高まっております。
当社グループでは、リスクマネジメント委員会傘下の部会として情報セキュリティ委員会を開催し、セキュリティ対策の検討・見直しを継続的に実施しております。また、パソコンの不審なプログラムの動作を検知し、実行を防止する「ゼロトラスト」の考えに基づいたセキュリティシステムを導入すると共に、基幹システムのデータバックアップ方法を見直し、復旧可能な仕組みの構築を進めております。さらに、近年では年々増加する標的型メール攻撃に対するeラーニング、各部署に配置した「IT推進者」への教育の徹底や人的対応力強化に注力しております。ただし、当社グループの想定を上回る新手のサイバー攻撃を受けた場合、システム停止による製品供給の遅れ、情報漏洩による損害賠償、信用低下による顧客離れ等による売上高の減少など、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/④]
5. 気候変動
当社グループは大地の恵みである多種多量な穀物を扱っており、穀物の生育は気候変動に大きな影響を受けることから、重大なリスクであると認識しております。
気候変動に起因する自然災害の発生や気温上昇が穀物の生育過程に悪影響を及ぼし、穀物の品質悪化や収量の減少が想定されます。これは、原料の高騰ばかりか当社グループが安定的に製品を供給することが困難となり、ステークホルダーからの信頼と事業活動に影響を及ぼす可能性があります。
気候変動リスクは、環境管理委員会傘下のTCFD委員会で分析を進めております。また、2021年12月にはTCFD提言への賛同を表明しました。当社グループの事業には大地の恵みである穀物は必要不可欠であることから「地球環境への配慮」をマテリアリティの一つに位置付け、気候変動への対応に取り組んでおります。TCFD委員会では、移行リスクと物理的リスクに分けてシナリオ分析し、気候変動が事業活動に与える影響を定量面と定性面で整理しております。
この分析したリスク対応の一部を「昭和産業グループ 環境目標」と連動させ、食品メーカーとして特に重要と考えるCO2、食品ロス、水、プラスチックに関する目標として設定しました。環境管理委員会の傘下に設置したCO2排出量削減部会、食品ロス削減部会、水使用量削減部会、プラスチック使用量削減部会が中心となり、この目標達成に向けた取り組みを進めております。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略③/⑤]
6. 人権
多種多様な事業ポートフォリオを有する当社グループにとって、不当な職場待遇、強制労働、ハラスメント等の人権諸課題への対応及び従業員の人権保護と関連法規制の遵守は非常に重要な課題と認識しております。あらゆる差別や偏見を排除し、従業員一人ひとりの多様なる個性・人格・能力を尊重し合う多様性に配慮した職場づくりが実現できない場合には、当社グループ及びブランドのイメージが失墜するとともに、従業員の生産性の低下、優秀な人財の獲得が困難になるなど、当社グループの競争力が低下する可能性があります。
当社グループでは「人権に関する取り組み基本方針」を制定し、この人権尊重の方針を土台として、互いを尊重し従業員一人ひとりが自らの強みを最大限発揮できる職場づくりに取り組んでおります。また、2020年に「昭和産業グループ調達方針」を制定し、人権尊重の考えをサプライヤーの皆様に共有しております。2023年度は人権リスクアセスメントを全グループ会社に行い、人権侵害のリスクを深刻度と発生可能性の観点から評価した結果、「長時間労働」「労働災害」「ハラスメント」の3つが優先的に対処すべき人権リスクとして見出されました。アセスメント結果を基に、将来的には重点領域の特定を行い、是正・予防措置、追跡調査による効果の検証、情報開示及び従業員のリテラシー向上といった人権デューデリジェンスの更なる取組強化へ繋げていく予定であります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略④/⑤]
7. 企業買収及び合弁事業
当社グループは、長期ビジョンの基本戦略となる「基盤事業の強化」及び「事業領域の拡大」を実現するための手段として、国内外の企業買収や海外現地パートナーとの合弁等の可能性を常に検討しております。
企業買収や合弁事業の実施にあたっては、当社グループ独自に策定したガイドラインに基づいた検証・審査プロセスを実施するとともに、外部専門家を活用することでリスクの低減を図っております。しかし、対象となる事業の環境変化等により、当初の想定通りにシナジー効果等が創出できない場合、当社グループの期待する成果が得られない可能性があります。また、企業買収等に伴い計上したのれん及び顧客関連資産については、それぞれの事業価値及び将来の収益力を適切に反映したものと考えておりますが、対象となる事業において当初想定していた収益力が低下する等の理由により減損損失が発生し、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/②]
8. 人財確保
国内における少子高齢化に伴う労働人口の減少により、必要とする人財の確保や育成ができない場合には、当社グループの経営状況や事業継続に影響がでる可能性があります。
当社グループでは「従業員のウェルビーイング向上」を目指し、多様な従業員が心理的安全性の高い職場で意欲高く、スキルや知識を身につけ成長していくことのできる環境整備に努めております。具体的には、研修の充実化や、毎年実施するエンゲージメントサーベイの結果を基に各セクションにてスコア改善へ向けた行動計画を策定・実行しております。また、「昭和産業健康宣言」に基づき、産業医・健康保険組合と連携を取りながら全社一体で従業員の健康増進に取り組んでおり、3年連続で「健康経営優良法人」に認定されました。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/②/⑤]
9. 少子高齢化・人口減少
日本国内においては人口減少及び少子高齢化が進んでおり、中長期的には国内需要の低下が懸念され、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
こうした市場環境の変化に対応するために、当社グループでは大規模な組織改編を行い、提案型営業による顧客ニーズに沿った製品提供、差別化戦略による付加価値商品の拡販やグループ連携による収益力強化、オレオケミカルなど非食品分野も視野に入れた新規事業創出などの事業領域の拡大にも取り組み、販路および収益の拡大に努めてまいります。また、人口が増加傾向にある海外にも注力し、需要が旺盛なASEAN地域を中心に事業展開や輸出の強化を図ってまいります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/②]
10. コンプライアンス
当社グループが事業活動を行う上で、食品衛生法、独占禁止法、下請法、景品表示法、個人情報保護法等、国内外の様々な法的規制や社会的規範を遵守することが求められております。
重大なコンプライアンス違反を起こした場合、民事上の責任(損害賠償等)、刑事上の責任(刑事罰)、行政上の責任(行政処分)といった法的責任の追及だけでなく、社会的信用やブランドイメージが大きく低下し、当社グループの経営成績や財政状態に影響を与える可能性があります。
当社グループは、経営理念である「人々の健康で豊かな食生活に貢献する」の具現化に向け、「コンプライアンス基本方針」の下、従業員一人ひとりが企業市民としての自覚を持ち、コンプライアンスの実践者となり透明性の高い組織としていくため、コンプライアンス委員会を中心に、抑止及び検知に向けた活動を推進しております。具体的には、必要な規程類の整備や、社会情勢によって変化する課題抽出とその対策として研修等の教育・啓蒙活動の展開、内部通報制度を通じた不正行為の早期発見や再発防止策の検討等を実施しております。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/②/⑤]
11. 知的財産
当社グループが知的財産権の取得、維持、防衛、保護を計画通りに実行できなかった場合、当社グループ独自の技術による競争優位性を維持できなくなる可能性があります。適切な知的財産権を取得し、その維持と防衛に努めることと、秘匿技術の保護に取り組んでおります。
また、当社グループの知的財産権が第三者に侵害される可能性や、当社グループが意図せず第三者の知的財産権を侵害し、販売差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。第三者による侵害製品や冒認出願について調査し、それに対応することで知的財産権とブランドイメージを保護するとともに、継続して教育活動を実施することで第三者の知的財産権を尊重する風土の醸成に取り組んでおります。
このような取り組みを通じて、当社グループの経営成績が悪影響を受けるリスクや、当社グループ及びブランドのイメージが毀損するリスクの低減を図っております。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/②]
12. 物流に関するリスク
運送・物流業界においては、ドライバーや構内作業員の減少、ドライバーの労働時間の上限規制の適用開始などにより運送能力が不足することが懸念されており、「物流の2024年問題」として社会的な課題となっております。
これらは原材料の調達と製品の供給の両面に影響することから、結果としてお客さまへの商品の供給が滞る可能性があること、また物流コストが上昇することが想定されることから、当社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性が大きいと考えております。
これに対し、当社は従来から「ホワイト物流」推進運動へ賛同し、拠点物流倉庫の整備、モーダルシフトによりトラックによる長距離輸送の削減、デザイン・フォー・ロジスティクス(物流を配慮した製品・包装設計)によるパレット積載効率の向上などに取り組んでおります。また、経済産業省、農林水産省、国土交通省から示された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」に従い、当社としての自主行動計画を策定し、公開しております。
今後も持続可能な物流の実現のため、当社グループでは物流事業者や得意先様のご理解・ご協力をいただきつつ、トラック待機時間の削減、配送頻度の適正化、パレット輸送の促進、配送業務外の付帯作業の改善、適切な物流料金の設定などの対策を進めてまいります。また、神戸工場の製粉立体自動倉庫の更新(2026年完成予定)を始め、物流分野への投資を実施します。更に行政の動向を注視し、様々な法規制の変更や追加へも適切に対応してまいります。
[長期ビジョンへの影響:基本戦略①/③]