世界の食料廃棄量は年間約13億トン。これは世界全体で生産された食料のおよそ3分の1に当たる量です。開発途上国で起きる食品ロスは、収穫技術や物流システムの未整備などが原因で、消費される前に失われたり捨てられたりしています。一方、先進国では多品種の商品を大量に陳列する、販売期限を設ける、外観が規格外のものを売らない・買わないなどの商習慣や消費者の食習慣などによって大量に捨てられています。そうしたなか、各国ではどのような対策がとられているのでしょうか。食品ロス問題の専門家、井出留美さんに世界の食品ロス対策についてお聞きしました。
フランスでは法律で食品の廃棄を禁止
2030年までに小売・消費レベルで世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる――。国連において、SDGs(持続可能な開発目標)のなかで採択された目標です。ヨーロッパでは食品廃棄への対策がいち早くとられてきました。
「フランスでは2016年2月3日に世界初の法律『食品廃棄禁止法』を制定しました。売り場面積が一定以上の広さがあるスーパーに、売れ残った食品の廃棄を禁じる法律です。売れ残った食品は廃棄せず、フードバンクなどの団体に寄付したり、飼料として活用します。また1日180食以上を提供するレストランに対しては、『ドギーバッグ』の提供を義務化しています」と井出さん。
外食で食べ切れなかった料理をテイクアウトするのも食品ロスを軽減させる一案
フードバンクとは、まだ安全に食べられるのに、ラベルの破損や賞味期限が近づいているために流通できないなど、様々な理由で廃棄せざるを得ない食品を、事業者や個人から引き取り、福祉施設や食べ物を必要としている人に無償で届ける活動。
ドギーバッグとは、食べ切れなかった分を持ち帰るための容器のこと。フランス農業省はドギーバッグではなく、作ってくれた人に敬意を払って"グルメバッグ"という言い方を提案したそうです。
「アメリカでは1967年に世界初のフードバンクが活動を開始。今では全米で210ほどあり、全国を束ねる組織もあります。家庭で食べ切れないうちに賞味期限が迫ってきているもの、まとめ買いで買いすぎてしまったもの、頂き物だけれど食べないものなど未利用品を持ち寄って、食べ物を必要としている人や福祉施設に寄付する『フードドライブ』という活動も盛んです」
家庭で余った食品を無駄にせず、必要としている人へ届ける「フードドライブ」
日本でもっと定着させるために必要なこと
海外では当たり前のように利用されているドギーバッグが日本でも普及し、フードバンクに協力する人や企業が増えていくためにはどんなことが必要なのでしょう。
「どちらも、リスク回避が普及を阻んでいる要因の一つです。ドギーバッグについては、食中毒になったら・・・という心配から持ち帰りを断っているお店が多いのです。日本の料理には生ものも多く、高温多湿な気候も食中毒発生の要因になり得ると考えられています。食べ切れなかった場合は、お店の人に頼んでみて自分の判断と責任でドギーバッグを利用する人が増えれば、少しずつ変わっていくのではないでしょうか」
「フードバンクについては、ヨーロッパやアメリカでは、善意の寄付による品に万が一不備があっても、意図せざる事故であれば責任を問わない免責の法律(善きサマリア人(びと)の法)があります。日本ではそうした法制度が整っていないために、企業が寄付しづらい背景があります。しかし、近年ではフードバンクの事業を資金面でサポートしたり、食品を寄付する企業や団体も増えてきています」
この機会に自宅のキッチンを見直して、食品の寄付に参加してみては
海外ではスーパーマーケットで実施するフードドライブが多いそうですが、日本でもスーパーのほか、世田谷区や文京区、杉並区などフードドライブを常時実施している自治体が増えています。また、農林水産省のホームぺージでは、フードバンクの仕組みや各地のフードバンクが紹介されています。この機会にぜひ、お近くの団体や企業などの活動で参加できることがないか調べてみてはいかがでしょう。
お話を伺ったのは
井出 留美さん
食品ロス問題専門家、消費生活アドバイザー。奈良女子大学食物学科卒業。博士(栄養学)。修士(農学)。食品企業広報室長として東日本大震災の折には食料支援に従事。大量の食料廃棄を目の当たりにし、office3.11を設立。食品ロス問題の専門家、ジャーナリストとして精力的に活動。2017年度第2回「食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)」、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018を受賞。著書に『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)。
2019年4月