世界中の国がこれから向き合っていかなければならない問題の一つが、世界人口の爆発的な増加です。これにより、エネルギーや食料の不足、地球温暖化などが懸念されています。国連では、SDGs(持続可能な開発目標)のなかで、2030年までに世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させる目標が採択されています。そこで、食品ロス問題の専門家、井出留美さんに日本の食品ロスの現状と課題についてお聞きしました。
消費期限と賞味期限の違いを知っておこう
食品ロスとは、まだ食べられるにもかかわらず捨てられている食品のことです。日本では約646万トンの食品がまだ食べられるのに捨てられています。このうち事業者によるものが約357万トン、家庭から出されているものが約289万トンで約45%を占めています。
家庭からロスが出る主な理由は、「野菜の皮を厚くむき過ぎるなど、食べられる部分まで捨ててしまう『過剰除去』と、保管しておいた食品の消費期限切れや賞味期限切れなどで手つかずのまま捨ててしまう『直接廃棄』、そして『食べ残し』があります」と井出さん。
家庭から出る食品ロスは案外多い。「もったいない」を合言葉に、無駄を減らすことを考えたい
直接廃棄の原因の一つである消費期間切れや賞味期限切れ。似ている言葉でも示している意味は大きく違います。
「消費期限はお弁当や総菜、食肉など日持ちがしない食品に表示され、日付を過ぎると急激に品質が劣化するものなので、表示された期限を守って食べることをお薦めします」
一方、賞味期限は、スナック菓子や缶詰、加工品などに表示されているおいしく食べられる期間の目安。
「各企業は、微生物試験や官能試験などをもとに算出した日持ちする日数に『安全係数』を掛けて、安全に対してゆとりのある期限設定をしています。表示されている保存方法を守って保管していれば、多少期限が過ぎても食べることが可能です。においをかぐ、目で見るなどして状態をみて判断しましょう」
食品ロスを少しでも減らすために、消費期限と賞味期限の違いを知り、選び方を考えることが必要
ごみを減らして、暮らしを豊かに
廃棄物が発生するのを抑制することは、実は暮らしを豊かにすることにもつながると井出さんは指摘します。
「例えば、東京都世田谷区の場合、コンビニエンスストアやスーパーの売れ残り食品である事業系一般廃棄物の1㎏のごみ処理には55円の費用がかかっています。自治体の財源はほぼ一定ですから、ごみ処理にかかる費用を減らす分、教育や福祉などに使える予算が増やせるのです。そして、コンビニエンスストアなどで出されるごみは、事業者もコスト負担する一方、事業系一般ごみとして税金で処理されています。小売店などで無駄に廃棄される食品を減らすことが、税金の有用な使い道につながるのです」
「実はスーパーやコンビニエンスストアなどでは、3分の1ルールという商習慣によって大量の食品ロスが出ています。製造日から賞味期限までの期間全体の3分の2に『販売期限』を設け、そこに達すると、まだ3分の1の期間が残っているのに棚から撤去するという暗黙のルールがあるのです。棚の奥から1日でも日付けの新しいものをと買い求めがちですが、その結果、まだ賞味期限には余裕があるのに販売期限を過ぎたものが、税金を使って廃棄されることになります」
1/3ルールによって食品が破棄される。消費者もなるべく食品ロスを出さないよう、買い物の際に気を付けたい
「家族構成や食習慣で消費のスピードはそれぞれ異なります。たくさん買っても使い切れずに捨ててしまっては意味がありません。また、陳列棚の奥に置いてある賞味期限の長い商品からついつい取ってしまいがちですが、賞味期限が短い手前の商品は3分の1ルールによって廃棄されることが多いのです。買い物をするときは無理のない範囲で食べ切れる量を見極め、できるだけ棚の手前に置かれた商品から買うようにしたいものです」
お話を伺ったのは
井出 留美さん
食品ロス問題専門家、消費生活アドバイザー。奈良女子大学食物学科卒業。博士(栄養学)。修士(農学)。食品企業広報室長として東日本大震災の折には食料支援に従事。大量の食料廃棄を目の当たりにし、office3.11を設立。食品ロス問題の専門家、ジャーナリストとして精力的に活動。2017年度第2回「食生活ジャーナリスト大賞(食文化部門)」、Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018を受賞。著書に『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)。
2019年4月